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最果ての世界

最果ての世界

王子・ロイ

 僕は、ラディストを統一したデルクの王子として生まれた。でも、僕には
あまり関係のないことだと思っていた。だって、僕は王様になりたい訳じゃ
ないから。今までみたいに、ずっと母上や姉上と一緒にいたかった。

 小さかった僕は、父上と会った記憶があまりない。ずっと母上と姉上と暮
らしていたから。父上は姉上を嫌っているのが、良く解った。それは、僕を
王様にしたいからだとも知っている。この国は昔から、王様は一番上の子供
が継ぐ決まりがある。だから、僕に姉上がいるから。僕は王様にならない。
そうなんだって、僕も知ってる。でも、僕はそれで良いと思う。姉上は優し
い人だったから…。きっと、すごく良い国を作るんだって僕は思うから。

 でも、実際にそうはならなかった。父上は、どうしても僕に王様になって
欲しいと言って。姉上を殺そうとした。
 その時から、僕は姉上に会っていない。どうしているのか、それすら解ら
ない。僕は優しくて素晴らしい姉上を、誇らしく思うし。すごく好きだった。
 姉上を思い出すと、いつも会いたくて仕方ない思いになってしまう。僕の
大好きな姉上を殺そうとした父上を、どうしても憎く思ってしまう。


 僕は、今でもあの時のことを忘れられない。
 あの日、いつものように姉上と母上と一緒にラライアを望める城のテラス
にいた。そして、それは突然に訪れた崩壊の瞬間。
 幼かったとはいえ、僕はもう7歳になっていたから。記憶はきちんと残っ
ていると思う。それでも、思い出せるものは決まっている。

 突然、父上が部屋へとやって来て。剣を振り上げて、姉上を殺そうとした
んだ。姉上は、その展開に頭が付いて来ないように。ただ、振り下ろされよ
うとする剣を見上げていた。その振り下ろされる瞬間は、まるでゆったりと
した時間の中にいるようにゆっくりと流れた。僕は、思わず目を閉じて音だ
けを聞いていた。
 少したって、姉上の『どうして…』という小さな呟きを聞いた。姉上は、
死んでいない。助かった。それだけが嬉しく感じて、目を開いたけど。僕の
目が映し出した光景は、そんなに喜ぶべきものではなかった。
 姉上を庇うように、覆いかぶさっている母上。その背には父上の剣を深々
と埋めていた。そんな状態であるにも関わらず、母上の声は澄んだ優しい声
だった。姉上に、『貴方はアディスの子。私の愛した人の子。この国を変え
る力を持つ血を持っているのです。さぁ、早く行きなさい。いつの日か、貴
方がラディストを変えるのですから。優しく、強く、自らの道を歩むのです。
私の愛しい子、貴方の命はここで絶えてはいけないのですから。』と語った。
 僕も、姉上に『逃げて』と叫んだように思う。父上は自分のしてしまった
ことに驚き、そして戸惑っていた。その混乱の中、僕は姉上を見失ってしま
った。最後に見えたのは、ただただ遠くなって行く姉上の背中。


 あれから、もう3年も経っている。でも、父上は姉上を探すために騎士を
城から出発させている。それが、僕には解る姉上が生きているという証拠。
 僕は、あの日から王都に連れて来られ。ずっと豪華で冷たい部屋に監禁さ
れているような状況だった。それでも、僕は姉上が生きているのだと解るだ
けで、構わなかった。生きていれば、きっと、いつか会えると願うから。


 大好きな姉上、僕はいつも空を見上げて思う。姉上も、同じようにこの空
を見上げているのだろうか。


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